15-5. 医療と遺伝子工学
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1) 遺伝子治療という選択肢
遺伝子治療(遺伝子療法)
正常な遺伝子を導入するアプローチ
ある遺伝子を制御する遺伝子を対象にする間接的なアプローチ
現在取られている措置の多くは、遺伝子発現の増加を狙ったもの
抑制に基づいたアプローチも増えてきている
2) 遺伝子治療の対象となる疾患、遺伝子
1990年、最初の遺伝子治療がアデノシンアミナーゼ(ADA)欠損症に関して行われて以来、日本も含め、世界では毎年約100件前後実施されている
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治療は原因遺伝子が明確になっている疾患が対象となり、感染症や後天的疾患の例もある
実際にはがんが過半数を占める
がんの遺伝子治療では、主にがん細胞で欠損しているがん抑制遺伝子が使われるが、このほか、免疫機能を高める遺伝子(e.g. インターロイキン、インターフェロン)も使われる
3) 遺伝子治療のアプローチ
伝統的には対象遺伝子が発現するようにcDNAと発現制御配列をベクターに組込み、それを生体の細胞に導入する
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in vivo法
DNAを直に投与する
裸のDNAの導入にはリポソームも使われるが、導入効率の点ではウイルスベクターが圧倒的に有利
ex vivo法
取り出した細胞にDNAを入れ、その後生体に戻す
リンパ球でよく行われる
新しい取り組み
RNA工学を利用する治療法
miRNAのなかにはがん抑制遺伝子や原がん遺伝子(発がん性レトロウイルスのがん遺伝子のもとになった細胞の遺伝子)のRNAを抑制するものがあるので、miRNAの鋳型DNAの導入が想定される
siRNAやRNA切断活性をもつリボザイムを発現させる方法も考えられる
最近急速に利用が広がっているゲノム編集を取り出した細胞に応用させ、部分的ながらもゲノムそのものを修復する取り組みも進んでいる
プロモーターやエンハンサーを改変し、がん細胞だけで増殖して細胞を殺すようにした腫瘍溶解性ウイルス(アデノウイルス, 単純ヘルペスウイルス)の使用も広い意味の遺伝子治療
免疫を得るために病原体やその成分をワクチンとして外から投与するのではなく、タンパク質発現DNAを体内の細胞に導入して体内からタンパク質を発現させ、ワクチンとして働かせるDNAワクチンというアイデアもある
遺伝子治療にはさまざまな潜在的危険性があることに留意
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4) 遺伝子多型解析と遺伝子診断
遺伝子多型
ゲノム配列の個性
病因遺伝子の同定や遺伝子診断を目的として、これまでもさまざまな多型マーカー(e.g. RFLP, SSCP)を利用した多型解析が行われてきた
現在では遺伝子内の個々の点変異に注目するSNP(single nucleotide polymorphism: 一塩基多型)が主に利用されている
初期の定義では変異率1%以上のもの
有病者群に対照群にみられない特定SNPがみられた場合、そのSNPを含む遺伝子は疾患の原因遺伝子である可能性が高い
SNPは従来PCRやリアルタイムPCRを用いて検出されていたが、最近は次世代シークエンサーによる全ゲノムシークエンシングやエキソーム解析が主要な武器になっている
なお、遺伝子多型にはコピー数多型(CNV)という現象もあり、やはり疾患との関連が注目されている
memo: エピゲノムマッピング
DNAのメチル化、ヒストン修飾、mRNAや非コードRNAなどに関する情報を主に次世代シークエンサーを用いて収集し、エピゲノムの総体を捉えようとする取り組み
国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)によりマッピング作業
発症とエピゲノム変化の関連が多数知られているがんを対象とする医療への貢献に期待
5) テーラーメード医療
成因や病状が個々で異なる疾患の場合、画一的な治療や予後指導は適切とはいえない
SNPタイピング
ゲノム中に膨大な数存在する個人差SNP(ヒトゲノム全塩基の0.1~0.3%がSNPと見積もられている)を系統的に分類解析する取り組み
従来漠然と語られてきた"体質"という用語も科学的視点で語られ始めている
遺伝子の網羅的な多型解析→疾患発症にかかわる個人に特有な遺伝的素因の解明
注意: 多型は必ずしもコード領域内に限定されない
原因遺伝子が解明→テーラーメード医療(tailor-made medicine), オーダーメード医療, 精密医療(precision medicine)
薬理ゲノミクス
SNPのようなゲノム多型情報は個人特異的な創薬にも利用されている
ゲノム創薬
ゲノム情報をもとに論理的に医薬品を開発する
タンパク質工学やRNA工学によるアプローチ
memo: [* トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)]
基礎医学研究の成果を臨床応用する最初の段階としてヒトを対象として行う研究
基礎研究で得られた構想に基づき、臨床的証拠の取得を目的とする
Column ヒトに関する遺伝子工学の諸問題
ヒトゲノム情報は個人情報の一種
個人の生体試料やゲノムデータ、そして解析結果の管理や移転には、個人が特定されないような暗号化などの保護作が必要
そもそもゲノム情報を取得するための生体試料採取時には、インフォームドコンセントの義務がある
遺伝子操作のヒト個体に対する適用は、倫理的な観点から、分化した体細胞組織に対しては許されているが、キメラ胚作製や核の交換など、遺伝子構成の異なる個人が誕生しうる操作は禁止されている
クローン人間、トランスジェニックヒト、キメラヒトの作製も禁止されている
iPS細胞の生殖細胞への分化や」関連基礎研究を行うことができるが、それをもとにした胚作製は制限されている